妊娠中の旅行(妊婦は遠出・旅行をしてもいいの?)
ドラマ「コウノドリ」で、妊娠中に旅行に行く「マタ旅(マタニティ旅行)」を検討している妊婦さんが登場しました。
私が初めて「マタ旅」のことを知ったのは6年前。
たまたま手に取ったマタニティ雑誌に「マタ旅特集」が掲載されていました。
そこには、お腹の大きな妊婦さんがご主人と共にビーチリゾートや高級ホテルで幸せそうに笑っている姿が載っていました。
その特集を読んだ時の「・・・これ、いいの?」という衝撃は、今でも覚えています。
あれから6年が経ちましたが、今では当たり前のように「マタ旅」という言葉が、何の違和感もなくマタニティ業界に浸透しています。
妊婦健診でも「旅行に行ってもいいですか?」「海外に行く予定なのですが・・。」というご相談をよくお受けします。
ドラマ「コウノドリ」で鴻鳥先生は「安定期だからといって安全とは限らない。産科医は旅行に行きたい妊婦さんを引き止めることはできないが、楽しんでいってらっしゃいと言う産科医もいない(略)。」と言っていました。
確かにその通りで、旅行先で緊急事態が発生した際の対応の遅れを考えると、おすすめはできません。後悔先に立たずではありますが、「今しか行けないから」という安易な気持ちで選択したことが、結果として悔やんでも悔やみきれないことになったら悲劇です。
100%安全なお産というものはないのですから、産科医がリスクについて考えるのは当然です。
それでも何かしらの理由で、妊娠中に長距離移動や海外旅行に行かざるを得ない妊婦さんもいます。
そこで本日は、妊娠中に遠出をする際の注意事項についてお伝えしたいと思います。
まず、遠出をする際には無理な計画を立てず、スケジュールに余裕を持たせましょう。
時期は、流・早産の危険が少ない妊娠中期を選び、体調不良の時は無理をしないことが大切です。
長時間の遠出や旅行の前にはかかりつけ医で健診を済ませ、流・早産の危険性がないことを確認しておきましょう。そして遠出・旅行時には、かかりつけ医の連絡先を書いたメモ、母子健康手帳、健康保険証を忘れずに携帯して移動しましょう。
海外旅行
長時間の飛行によるストレスや、時差ぼけにより身体への負担も考えられることから、海外旅行の計画を立てる際には必ず医師に相談し、出発前には診察を受けておきましょう。
旅行者下痢症を発症する恐れがあるため、食べ物、水については衛生上十分注意を払ってください。特に生物・果物に気をつけましょう。
予防接種が必要な旅行は避けるべきですが、海外への駐在などでどうしても必要な場合は医師に相談しましょう。
飛行機
妊婦さんの搭乗基準については、各航空会社で独自の基準が設けられてるため、予め確認する必要があります。更に妊娠後期は医師の証明書がないと搭乗できません。
機内では動脈血の酸素分圧が下がりますが、血中のヘモグロビン濃度は保たれているため、低酸素状態になることはありません。しかし妊娠中は貧血傾向にあるため、貧血が注意されている妊婦さんは注意が必要です。尚、放射線被曝は月80時間の飛行までは胎児に危険はないとされています。
また機内では脱水及びエコノミー症候群を予防するために、十分な水分を摂取し、弾性ストッキングの着用や下肢の運動を心がけましょう。
自動車
長距離移動の場合、1日6時間以内の乗車が望ましいとされています。2時間以内に車を止め、10分以上の歩行をすることで血栓形成の予防につながります。
そして乗車時にはシートベルトを正しく着用しましょう。
(詳しくは→「妊婦はシートベルトを着用しなくてもいいの?」をご覧ください)
妊婦さんが運転する場合、①腹部増大に伴い目線が変化する②半回神経やバランス感覚が鈍磨していることを考慮し、妊娠37週以降の運転は控えることをおすすめします。
船
多くの船会社は妊娠7ヶ月までは妊婦さんの乗船を許可しています。しかし船旅は悪心・嘔吐を増悪させるため、つわりや消化器症状で悩んでいる妊婦さんは無理をしないでください。
高地
妊婦さんが高地に旅行をしてはいけないという明確なエビデンスはありません。
しかし、妊娠中に高地に長時間滞在することで、子宮内胎児発育遅延・高血圧症・早産のリスクが上昇するという報告もあります。
妊婦さんが低酸素症や急性の高山病になる可能性や、病気や妊娠合併症を発症した場合にすぐ医療機関に受診できないことを考えると、標高2400m以上の高地に行くことは避けることが望ましいです。
以上が妊娠中に遠出・旅行をする際の留意点です。
個人的意見
私自身も遠出や旅行が大好きなので、「時間がある時に旅行をしたい」と思う気持ちはよく分かります。
故にマタ旅を楽しみにしている妊婦さんの気持ちも分かります。
しかし「今しかいけないから」と思っている旅行先は、本当に今しかいけない場所なのでしょうか。おそらく数年後にも残っているはずです。
赤ちゃんがお腹の中にいる妊娠期間こそが「今しか体験できないこと」であり、非日常のはずです。
妊娠したことで諦めたり制限がかかったりする事が増えますが、逆に得られることも多いはずです。
是非、安心で安全なマタニティライフを過ごしていただきたいです。
次回は、「妊婦さんは温泉に入ってもいいの?」というテーマでお伝えします。
〜関連記事〜
・島の出産事情(医療のない地域での出産)
・バースプランについて
・マタニティスイミングの効果・注意点・開始時期は?
・妊婦さんは温泉に入ってもいいの?
東京マタニティスクール
港助産院 城野