【母親の笑顔が消えるとき】他人事ではない産後うつの実態


先日、東京都周産期医療ネットワーク事業地域連携会議に参加してきました。
テーマは「産後うつ」。
個人的にも非常に興味のある内容です。

女性の20%が人生のどこかで「うつ」の傾向になるといわれており、うつ病患者数は年々増加傾向にあります。
女性のうつ病の発症率は男性の2倍で、そのうち2/3の方が産後と更年期に発症するといわれています。

産前産後・・・。
実は、妊産婦の10人に1人がうつ病を発症しているといわれています。
そしてうつ病による自殺問題が深刻化しています。

ここ10年(2005-2014)の間に、自殺した妊産婦の人数は東京都23区内だけで「63人」(※1)


これは、産科・偶発合併症(出血や高血圧など)による母体死より明らかに多く、妊産婦死因の最も多い要因となっています。
日本の周産期医療は世界最高水準であり、妊産婦・周産期・新生児死亡率は激減している一方で、周産期メンタルヘルスケアの問題・対策に課題が残っています。

特に妊産婦自殺の時期で多いのは、妊娠初期(2ヶ月)と産後4ヶ月で、次に産後3ヶ月・6ヶ月と報告されています(※2)
また産後2週未満に疲れと負担がピークに達し、半数以上が心身ともに不安を抱いていることが厚生労働省の実態調査でも明らかになっています(※3)

うつ病の原因は神経伝達物質(セロトニン・ノルアドレナリン)の変動やストレス、病気や喪失体験等の様々な原因が複合的に絡み合って発症します。
特に産前産後はホルモンバランスの変動や疼痛、睡眠不足や育児不安等、心身共に多くのストレス負荷がかかります。

以下の特徴がある妊産婦は、特にフォローアップが必要であると指摘されています(※4)

・社会心理学的ハイリスク者(望まない妊娠、未婚者、流早産後、中絶後、家庭内暴力被害者、家庭不和、自傷行為既往、夫の無理解、経済的問題など)
・妊娠・分娩への不安
・ストレス(長期入院、合併症妊婦、恐怖、PTSD、母子分離など)

更に自殺者に共通する心理として、順天堂大学の竹田教授は以下のように述べています(※4)

"自分がどこかに所属しているという感覚が弱くなる「所属感の減弱(疎外感)」がある。もうひとつには「負担感の知覚」すなわち「自分が周りのお荷物」になっているという感覚がある。"

たしかに育児中に「孤立・孤独感」を抱く母親は多いですが、問題はそれらの「蓄積」なのではないでしょうか。

学生時代に、とある先生が黒板に書いた「ピッチャー」のイラストがとても印象的で今でも鮮明に覚えています。


先生は、自分の心の状態が「ピッチャー」だった場合の話をしてくれました。

心のピッチャーが、安心感や幸福感、満足度などで満たされている時は余裕があるので、他人にも愛情を注ぐことができます。


しかし悩みやストレス等を抱えてピッチャーに余裕がなくなると、そもそも誰かを愛したり優しくしたりすることができません。
これは育児に限らず、仕事や介護等にも通ずる理論です。


自分で自分の感情のピッチャーを満たしてあげることができなくなった時、それが無関心やうつの引き金になります。

ピッチャーを満たすためには、愛情や安心感を注いでくれる第三者の存在が必要不可欠です。


自分一人で抱え込まずに、自ら打ち明けたり頼ったりしてください。

身内が頼りなければ、産科医療機関、ソーシャルワーカー、地域保健師・助産師、精神保健福祉センター、民間企業などを活用してください。

私も地域で働く助産師として、皆様の良き理解者・相談者であり続けたいと日々強く思っています。



(▼産後うつ病のスクリーニング検査▼)
エジンバラ産後うつ病自己質問票
最近は、男性(夫)の産後うつも増えています。


最後に・・

自殺念慮・希死念慮のある方に対する周りの人間の対応で、「TALKの原則⭐️」というものがあるのでご紹介します。
(※救命救急の現場でも活用されている対応です!)

TALKの原則〜


Tell:話しかける
Ask:尋ねる
Listen:傾聴する
Keep safe:安全を確保する

*具体的には・・*

Tell
あなたのことを心配しているということをはっきりと言葉で伝える。

Ask
自殺の危険を感じたら、率直にその点を尋ねる。

Listen
徹底的に聞き役に周り、相手の気持ちを真剣に聴く。安易に励まそう、助言しよう、叱ろうと思わないこと。価値観や社会通念の押し付けは禁物。

Keep safe
安全を確保したうえで、ひとりにさせない。必要時は周りの援助を求めたり、専門医の受診につなげる。

***

The opposite of love is not hate, it's indifference.(愛の反対は憎しみではなく、無関心。)」「The opposite of life is not death, but indifference between life and death.(生の反対は死ではなく、生死に無頓着なこと。)」というエリ・ヴィーゼル氏(ノーベル平和賞受賞者)の言葉が有名ですが、目の前の人に関心をもつことは行動変容の原点でもあります。

相手に寄り添い、相手の存在そのものを必要としていることを態度と言葉で伝えることは、自殺予防のみならず人間関係を良好に保つための土台であると思っています。




港助産院 城野
http://www.minato-josan.jp

(参考引用文献)
1)朝日新聞2016年4月24日
2)埼玉産科婦人科学会雑誌 第48巻
3)読売新聞2018年4月10日
4)周産期医学 VoL47 No.5 2017-5

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