イタリア語から考える親子のコミュニケーション
学業の傍ら、学生の頃にタリーズコーヒーでバイトをしていた時期がありました。
タリーズコーヒーではオーダーが入ると、キャッシャー(レジの人)がバリスタ(珈琲を作る人)にイタリア語を投げかけ、バリスタはその言葉を復唱するという決まりがあります。
コールの内容は下記5点の何れかで、キャッシャーの気分やお客様の雰囲気を加味して言葉が選ばれます。
タリーズで飲み物を注文する際には、ぜひ耳を澄ませてみてください。
「con amore!(愛を込めて)」
「 con brio!(生き生きと)」
「 con passione!(情熱を込めて)」
「 con spirit!(元気よく)」
「 con sentiment!(感情を込めて)」
私がバイト先でキャッシャーをしていた時は、お客様の状況や第一印象で言葉を選んでいました。
仕事疲れのサラリーマンには「con sprit!」、受験生には「con passione!」、そして子育て中の母親には「con amore!」とイタリア語を投げかけていました。
そんな情熱的なイタリア語ですが・・日本に馴染みのある代表的なイタリア語といえば音楽用語です。
代表的な音楽用語といえば「フォルテ:f(強く)」「ピアノ:p(弱く)」「クレッシェンド:cresc.(だんだん強く)」等がありますが、マニアックな音楽用語を含めるとその数は1000以上もあります。
タリーズのコール同様に「愛を込めて」「感情を込めて」「生き生きと」という感情を表現するイタリア語の音楽用語は沢山あります。
実際に私生活でも、イタリア人は感情・愛情表現がストレートで豊かな人が多いイメージをもたれています。
特にその傾向は、子育て中の親に顕著に表れると言われています。
イタリア人は、赤ちゃんに対する言葉での愛情表現が多いことで有名です。
「Ti voglio bene!(愛してるよ)」
「Bravo!(すごいね)」
「Tesoro mio!(私の宝物)」
このように愛情表現を活発に行いながら子どもと向き合うことを、「イタリア流子育て」と称して推奨する人が増えてきています。
たしかに、以前イタリア人の出産に立ち会った際には、「赤ちゃんによく話しかけてるな」と感じました。イタリア人は、我が子のことを名前ではなく「bella(美しい子)」「prinsipessa(お姫様)」「amore(愛しの人)」等の愛称で呼ぶ傾向にあるそうです。
このような肯定的な言葉のシャワーを親から浴び続けていたら、子どもの自己肯定感は高まるはずです。
イタリアには「マンモーネ:mammone(母親を優先的に大切にする大人)」が多いのも納得です。
wikipedia でも、「日本では成年した男性が母親と親しく接することは、「マザコン」として忌避されるが、イタリアでは「母の言うままに」生きることが親孝行として見られる傾向があり、イタリア社会がマンモーニ(ママっ子)を許容する背景となっている。」と記されています。
親と子の信頼関係を築くためには、言葉での直接的なコミュニケーションが必要不可欠です。特に小さい子どもは、存在を肯定されるようなポジティブな感情・愛情表現を必要としています。
冒頭でタリーズのコールを例に挙げましたが、これは子どもが健やかに成長していくために必要な親の心の状態や対応でもあると思っています。
そして親が子に発した言葉は、良くも悪くも数年後にそのままコールバックされる日がきます。
日本に普及しているイタリア語は、愛情豊かでポジティブな単語が多いので、子育て中の方は参考・活用してみてはいかがでしょうか。
次回は、「イタリアの出産事情について」寄稿します。
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港助産院 城野